武蔵野うどんの伝統を守り継ぐ名店「手打ちうどん こせがわ」東京都東村山市

 東京・新宿から西武線で約40分。東村山駅(東京都東村山市)から徒歩15分ほどの住宅街に「手打ちうどん こせがわ」はある。  同市は関東平野に広がる武蔵野台地のほぼ中心部に位置する。その昔、コメよりも小麦の栽培が盛んで、地粉を使用した、コシの強い太麺が特徴の「武蔵野うどん」が郷土料理として親しまれてきた。市内には、うどん専門店が点在する。  土曜日の昼、「こせがわ」ののれんをくぐると、常連客や観光客でにぎわっていた。店主の岩崎和江さん(82)が注文を取ったり、うどんを運んだり…

西武新宿線の東村山駅から徒歩15分。東京都東村山市の住宅街に「手打ちうどん こせがわ」はある。新宿駅から西武線で約40分、土曜日の昼には常連客や観光客で店内が混む。店主の岩崎和江さん(82)が注文を取り、次男の修さん(59)と2人で店を回っていた。

同市は武蔵野台地のほぼ中央に位置し、米より小麦の栽培が盛んだった。地粉を使った太麺の「武蔵野うどん」が郷土料理として食べられ、市内には専門店が点在する。

できたての味

麺は前日から仕込み、足踏みと寝かしを繰り返す。一番人気は「ざるうどん」(630円)と「肉汁」(80円)のセットで、「天ぷら」(140円)や「かて」と呼ばれるゆで野菜の盛り合わせ(200円)を添える。

豚バラ肉が入った熱い肉汁に麺を浸すと、汁の脂と甘辛い味が麺の表面に絡む。細切りの大根を汁に入れて麺と一緒に食べると、ゆでた大根の歯応えが残り、肉汁の温度でやわらかさが増す。

注文から提供まで

岩崎さんは「麺はゆで置きせず、注文が入ってからゆであげる。野菜のかき揚げも注文を受けてから揚げている」と手順を説明する。

すべて手作業で

岩崎さんは60年以上前に埼玉県川越市から夫の地元の東村山へ移った。この地域ではうどんは農家の日常食であり、冠婚葬祭の締めにも出された。岩崎さんは「この地域の女性は皆、うどんが打てた」と話す。義母から家庭の味を教わり、農作業の合間に収穫した野菜と打ちたての麺を家族で食べたという。

自宅敷地内に持ち帰り用の麺販売所を開いたのは1999年、56歳の頃。夫の自動車修理工場を長年手伝ってきたが、「うどんなら打てる。家計の足しになれば」と思った。しかし気温で水と塩の量が変わるため、安定した品質には時間がかかった。東京都内の製麺技術を学ぶ教室に通い、全工程を手作業で行う麺を仕上げた。客の「食べる場所があったらいいのに」という声を受け、販売所の隣に食堂を併設したのは20年前だ。

地域との接点

食堂の営業時間は午前11時から午後2時。常連客の佐々木三佐子さん(86)は昆布とかつおのだしをきかせた「肉うどん」(750円)を注文し、「麺のゆで加減もいいし、つゆがおいしいの。20代の孫もここを気に入っている」と話す。閉店30分前に来る近所の84歳の女性は、食後に岩崎さんや他の客と話す時間を楽しみにしている。

市内の小学生が店でうどん作りを学びに来たり、岩崎さんが小学校へ教えに行ったりすることもある。