相撲:初優勝の安青錦、戦禍続く母国ウクライナへ吉報届ける
2023年11月23日、福岡国際センター。23歳の関脇・安青錦は琴ノ若を寄り切り、14勝1敗で幕内最高優勝を決めた。ウクライナ出身力士としては初の幕内最高優勝となる。この一番の立ち合いは突き押しではなく、相手の攻めを呼び込んでから横に動く注文相撲だった。館内がどよめいた後、安青錦は土俵下で短く天井を見上げ、表情を締めた。

場所前に訪れたカフェ
場所前の11月上旬、安青錦は東京都武蔵野市にあるウクライナ料理カフェ「クラヤヌィ」を訪れた。同店はNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY」が運営する交流拠点だ。安青錦はボルシチとヴァレーヌィクを注文し、厨房のウクライナ人スタッフに「やはりこれが落ち着く」と母国語で話した。店内には青と黄色の国旗が掛けられ、その前で撮影に応じた。優勝まで三週間を切った時期での来店だった。

唯一の黒星から千秋楽へ
13日目、安青錦は大関・霧島に押し出しで唯一の黒星を喫した。立ち合いの圧力で後退し、右を差す前に勝負を決められた。14日目の豪ノ山戦では土俵際まで追い詰められたが、左からのいなしで逆転した。師匠の安治川親方(元幕内・安美錦)は「負けた翌日に慌てず、自分の形へ持ち込んだ。そこで対応できるかが問われる」と話した。霧島戦の敗因について安青錦は「強引に前に出たこと」と自己分析し、翌日は相手の圧力を一度受け止める形を選んだ。この修正が千秋楽の寄り切りに直結した。
避難者たちの具体的な見方
ウクライナ南部ミコライウ市出身で、現在は広島県福山市に住むビクトリア・カトリッチさん(27)は4歳の娘と映像で優勝の瞬間を見た。彼女は「祖国の状況が厳しいからこそ、この一番の意味がわかる」と話す。ミコライウは侵攻当初から激しい砲撃にさらされた都市で、彼女はそこから避難した一人だ。千秋楽の寄り切りについては、体勢に入る際の低い重心を挙げ、「下半身が安定していた」と指摘した。
同じ店で働く31歳のウクライナ人女性店員は、11月場所で初めて安青錦の取組を生観戦した。彼女は「相手が動くのを待つ相撲が増えた。若いのに焦りがない」と述べ、上の番付へ進む条件が整ってきたと見る。安青錦が店を訪れた際、国旗を手にした姿を見て「ここにいる私たちも働き続けられると思えた」と話した。

昇進審議と次場所
日本相撲協会は現在、安青錦の大関昇進を審議している。直近3場所の合計は33勝で、昇進の目安とされる33勝に達している。審判部からは「内容も申し分ない」との声が出ている。安青錦は優勝一夜明け会見で「まだ上がある。満足はしていない」とだけ答えた。次は年明けの初場所になる。
初場所で見えるもの
初場所の焦点は、大関という立場で注文相撲を維持できるかに絞られる。